花火の夜の物語 95
花火の夜の物語 94からつづく
Yさんは手にした雑誌を持ったまま、ぴょんと跳びはねて2メートル程先にしゃがみ込みました。
歩道にはまだ引ききっていない水が、薄い水たまりを作ったままです。
Yさんが着地したときに跳ね上げた水滴は、僕のほうまで飛んできました。
僕のワイシャツの模様がまた増えました。
Yさんは膝をかけるような格好で座り込んだので、彼女の超ミニの、

ワンピースは、後ろ側の裾が水に着きそうでした。
僕が注意しようと口を開きかけたとき、Yさんが立ち上がってこちらを振り向きました。
彼女はなぜか得意そうに、いたずらっぽい笑顔を僕に向けました。
僕を含めた、その他大勢の男子の心を代弁すると、この笑顔を見て心が騒がないものはいないでしょう。
正真正銘の美少女でありながら、嫌みが無く、かつ爽やかという奇跡的なコラボレーションです。
同じ女子で、ある意味ライバルである八木さんも、同じようなことを言っていたので、まあ間違いはないと思います。
八木さんに気に入られるのは、相当にハードルが高いですから……
可愛いだけじゃ、全然認めないですし。
振り返ったYさんは、右手を持ち上げて、うれしそうに目を見開きました。
「ほらこれで、大丈夫」
Yさんが持っていたのは、さっき水の中からひろいあげたコンビニ袋で、その中に僕から取り上げた雑誌が入っていました。
「これなら、外からは何が入ったいるか分からないでしょ」
「うーん……」
いや、Yさん。
君の角度からは、中身が分からないかもしれないけれど、僕のほうからは水でぴったりと張り付いたコンビニ袋は、すっかり透けているんですけど……
96につづく
01はこちら
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