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2009年6月 3日 (水)

花火の夜の物語 89

 花火の夜の物語 88からつづく
 後ろを振り返るとYさんがついてくるので、一人で行くからいいと言ったのですが、
「いえ、私も行きます」と言って、僕の後を追ってきました。

 僕はふと気づいて、急に足を止めました。
そのまま振り向くと、勢い余って僕にぶつかりそうになったYさんが、こちらを見上げて目を見開いていました。

「危ないじゃないですか店長。急に止まらないで下さいよ」

「そんな事より、どうして先にこのことを言わないんだ?」
「だって、店長があんまり真剣に水撒きしてるんで、感心して忘れちゃいました」

「じゃ何か。僕は、退屈そうで、それでいて楽しそうに、しかも真剣に水撒きをしていたってことか?」
「私にはそう見えましたけど……」

 まあいい、ここはそういうことにしておいてやろう。
僕は先を急ぎました。

 店から北へ、50mほど下ったところに、水たまりはできていました。
国道の傾斜は一定ではなく、その辺りでいったん水平に近くまで緩くなっています。
ちょうどその部分に水がたまっていました。

 水は側溝に流れ落ちていくはずなんだがと思いながら、様子をうかがっていると後ろから迫力のある排気音が聞こえてきました。

 僕とYさんがその音につられて振り返った時。
真っ赤なランエボが向かってくるのが、目に入りました。

 しかし次の瞬間、ランエボの姿は視界から消えました。
幅広で扁平なタイヤが巻き上げた滝のように盛大な水しぶきは、僕とYさんを包み込みました。

 50m下っていくうちに、カリカリに乾いた夏の道路で温められ、さらに表面に浮かび上がったほこりや泥を、たっぷり含んだ水が……

「ひっどーい」
Yさんが悲鳴を上げながら手を振って、泥水を切りました。
そして、それほどきれいになったとも思えない手のひらで、顔をぬぐいました。

 90につづく
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