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2008年12月13日 (土)

花火の夜の物語 39

 花火の夜の物語 38からつづく
 ロッカールームと休憩室はドア1枚しか隔てていないので、声は筒抜けです。
Yさんは着替えながら僕たちの会話を聞いていたようです。
「じゃ店長、私は帰ります。K君がんばってね」

 Yさんはそう言い残すと、軽やかに休憩室を後にしていきました。
K君の視線はYさんを追っていました。

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 八木さんはというと、そんなK君の顔をじっと見つめていました。

 ばたばたと大きな音をたてて、Yさんが出てきたドアの隣からS君が飛び出してきました。
「まいりましたよ。この前帰るときに確保しておいた僕のユニフォームを誰かが着ちゃったらしいですよ。まったく」
「昨日、Lサイズの上着が切れちゃったからね。たぶん高校生が借りたんだとおもう」
「お願いです。ユニフォームだけは切らさないで下さいよ。新しいユニフォームがないと、気合いが入らないですから」
「了解、発注増やしとく!」
八木さんがS君に向かって、右手で拝むような仕草をしました。
「お願いします」
S君は首のスカーフを、ぎゅっと締め上げると、帽子をかぶってキッチンに走りました。

 休憩室には僕と八木さん、そしてK君の三人だけが残りました。
八木さんはそれまでYさんが座っていたイスに腰を下ろしました。

「八木さん、ホールに戻らなくていいんですか? 団体が入って大変だって言ってましたけど……」
K君が心配して、訊ねました。
「だいじょうぶ、あれは嘘だから」
「えっ……」

 やっぱりそうだったか。
僕は最初からおかしいと思っていたのです。
今キッチンにいるのは、副店長と大学生の二人です。
副店長は当然ですが、大学生の方もうちの店のキッチンのメンバーの中では、できるバイトです。
少々のことで、つぶれるわけはないのです。
だから安心して僕も、バックに下がっているのです。

 そもそもそんな気配が全然、バックに伝わってきていません。
それに今の時間帯は、どちらかというとホールの方が弱いので、ほんとうに団体が入ったようなら、八木さんがこんなところにいるわけはありません。

「何でそんな嘘を?」
K君が怪訝そうな顔をしました。
「まっ、それは家でゆっくり考えてみて。それより、まだこんなに暑いっていうに初詣の話しをしていたらしいけど…… K君」
「何ですか?」

 八木さんはテーブルに両肘をついて、組んだ両手の上に細いあごを乗せて、口に微笑みを浮かべました。

 40につづく
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