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2008年12月 1日 (月)

花火の夜の物語 33

 花火の夜の物語 32からつづく
「そうだけど、それはたとえば、すれ違った車のナンバーとか、テレビで一瞬流れた電話番号とか、そういうのだから。一瞬でたくさん覚えられるけど、その代わりすぐに忘れるからあんまり役に立たないな」
S君は首を横に振りながら、言いました。
「そっか、うまくいかないですね」
Yさんは視線をS君が持っているマニュアルに落としました。
「でもテストの前の一夜漬けには使えますよね?」
 暗記科目が不得意なK君が、

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 羨望のまなざしをS君に向けました。
「一夜漬けというか、暗記科目はテストの日の朝に早起きして覚えたりするよ。少なくとも夕方ぐらいまでは保つから。ちょっとだけ、くふうがいるけど……」
「くふうって、なんですか?」
「頭の中に入ってきたものを、逃げ出す直前にもう一回捕まえるような感じかな」
「わっかんない、ぜんぜん、わかんない」
K君が、頭をかかえました。
「いろんなことを、連続して覚えようとすると最初に覚えたものを忘れちゃうでしょ。だから忘れる直前に、ほんの一瞬思い返すんだよ。ちらっと……」
「ちょっと待って、S君は忘れそうになる瞬間が分かるの?」
S君の言うことに興味がわいてきた僕は訊いてみました。
「分かるというか…… 感覚的な問題なんで。頭の奧で何かが、チリチリっとする感じがするんです。今までそれでうまくいっているから、たぶん……」
いずれにしろ、特殊な能力であることは間違いないようでした。

「いや、それでもすごいよ。僕なんか三歩歩いたら、それまで何を考えていたか忘れることがあるから」
「店長のは、老化じゃないですか?」
茶化すK君を僕は視線で圧殺しました。 

「それでS君、実際に何桁ぐらい覚えられるの?」
「たぶん10桁の数字が4組ぐらいなら、すらっと頭に入りますよ」
「10桁か、それはすごい。じゃあ、テストもいい点が取れるね」

 僕は感心し、
S君は照れ笑いを浮かべ、
K君はすねたような顔で新メニューの早見表を手に取り、
Yさんは笑顔で言いました。

「それは無理ですよ、店長。だってそのころ、もうSさんはこの店にいないもの」」

 34につづく
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