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2008年3月21日 (金)

F' エンジェル

 店に出勤してくると彼女たちは、必ず初めに二人で全員に挨拶をする。
その声が余りに子供っぽいので、そこでだいたいのアルバイトは、あなどる。
休憩室などでは高校生がざわつくのはいつものことで、ときにはくすくすと笑い声が起こることさえあるほど。

 ところが、いざ二人がキッチンとホールに分かれてピークに突入すると店の空気は一変する。
さっきまで笑っていたアルバイトの視線は彼女たちに釘付けになり、身体が自然に動きだし、客席から聞こえてくるお客さんの活気はチェックが一枚増えるたびに、そのボリュームを増していく。

 これが彼女たちの普段のトレーニング風景だ。

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 特に美人というわけではないが、彼女たちのオペレーションには華がある。
本当にいい顔で店をまわすのだ。

 本部所属のトレーナーコンビ、「チームA」
ホールトレーナーの高木綾子、キッチントレーナーの香川睦美の二人組。
年齢は22才と23才。
関東地区のアルバイトリーダーの中から選抜されて2006年に結成された。

 "A" から"E" まで、全部で五つあるチームの中で最も若いチームだ。
現在は二人とも契約社員になっている。

 二人は、ホールとキッチンの毎月のトレーニングプランを独自に組み立てる。
それを見て本部のトレーナー部のチーフが、状況に応じて全国の店舗に派遣する。
トレーニングプランは基本的に香川が立てたキッチンのトレーニングプランをもとに、二人でアレンジをする形でできていく。
ホールとキッチンは一体であり、レストランはキッチンがベースだからだ。

 彼女たちは勘がいい。
毎月のように加わる新メニューのポイントや、オペレーション上の問題点を本能的にとらえるタイプだと思う。
そのトレーニングは女の子らしい可愛らしさの中に、女子特有の鋭さや覚めた視線が潜んでいてなかなか面白い。

 ある日、僕が彼女たちがプランを立てている会議室に入っていたときのこと。
「新しいプランができたんです!」と、二人が嬉しそうにファイルを僕に見せた。
実際のオペレーション中だけでなく、デスクワークの時も彼女たちはいい顔をしている。

 そのプランは、現在のフロアごとに担当を決めて、オーダーテイクから料理提供まで一人のウェイトレスが責任をもって担当するというスタイルを撤廃するというものだった。

 これまでテーブルの位置で担当を分けていたものを、入客から退店までの時間軸に沿っていくつかに分割するというアイデアだった。
これによって、フロアごとの入客の波による負担の違いがなくなり、自分の作業に余裕がでたときは担当範囲から時間軸を前後に移動してフォローすれば全体としてのスピードが上がるというものだった。

 実現できないことはないと思うが、この方法では一気に総崩れになりやすいと僕が言うと、「チームA」の二人は、だから司令塔を置きますと応えた。
僕は、その司令塔の役目は相当に難しいものになると思った。

 それを誰がやるのか? 
そもそも、その任につけるような機転の利く人間がどれだけいるのか?
ある程度の売上がある店でなければ、その方法は無理ではないのか?

 だがそれを僕は口には出さなかった。
もっと大きな問題があったのだ。
彼女たちのプランは残念ながら、会社設立時からの基本的なサービスに対する理念に反している恐れがある。
たとえそれが優れた方法であったとしても、上層部から認められることはないだろう。

 僕が言ったのは、そんな言葉だった。

 僕がそう指摘するとプランを作った高木綾子が、一瞬、驚いた顔をしたあと「ああ、やっぱりそうですか」と残念そうにうつむいた。
しかしすぐに顔を上げて、「でも、それは変えられないんですか?」と一言つぶやいた。

 僕は驚いて、というよりも、驚きすぎて笑ってしまった。
効率を見直したマニュアルだとか、現場からの意見のフィードバックだとか、リアルな感性を生かした接客だとか、彼女たちにはもはやそういう問題ではないのだと気づいた瞬間だった。

 そのあとすぐに香川も同調して、二人して、「そうですよ、変えちゃえばいいじゃないですか」と声をそろえて合唱した。

 その頃にはもう爽快感すら感じていた。
不自然なほどの自然体。
これは凄い感性だと思った。
先輩面してつまらないことを言ってしまった自分が少し恥ずかしくすら感じた。

 普通の女の子が普通にサービスを提供する。
ただそれだけのことに宿る可能性。
彼女たちはそれを体現している。

 たぶん、これが新しい世代なのだと思う。
彼女たちが生まれたときはすでに、ファミレスやコンビニは絶頂期を迎えていたはずだ。
アメリカから輸入したビジネスプランが、ここ日本で花開いたころ彼女たちは生まれた。
「青春時代に、あって当然なものとして、それらに接してきた最初の世代」がつくる、新しいサービスの形。

 僕は彼女たちに自分の店でそのプランを試してみることを了承した。
おそらく彼女たちは見かけに似合わぬ豪腕で、持てる能力のすべてを投入してでも、それを成功させるだろう。
しかし、それを一般化できるかどうかは別の話だ。

「チームA」。
その名前には、なんとなく未来の匂いがする。

 きっと彼女たちは、ファミレスの神様のまさに好みのタイプで、いつも彼女たちにやさしく微笑みかけているのだろう。
彼女たちと一緒に居れば居るほど、そんな気がしてくる。

 彼女たちの意には染まないだろうが、あえて「エンジェル」と呼ばせていだだこう。

 "Team Angel!" 新しい時代の幕開けだ。

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