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2008年2月10日 (日)

モノレールの漂泊者 PART 2

 PART 1 はこちらです
 来店以来一週間帰らずに、店に居続けるお客さんの方を見ながら、中田さんは言いました。

「大丈夫ですよ、明日は絶対に帰らないといけなくなりますから」
「どうして?」
「だって明日は……」

 そう言われて僕は気がつきました。
明日は、「外注清掃」の日だ……

 24時間営業のファミレスは基本的に年中無休で、文字通り店の灯りが消えることはありません。
ただし例外があります。

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 それは、「外注清掃」と、うちでは呼んでいて業者に依頼する清掃のことです。
「じゅうたんクリーニング」、「窓ガラス磨き」、「フローリングのワックスがけ」等が行われます。

 じゅうたんやガラスは水洗いしますし、床のワックスがけの時はその上を歩けなくなるので営業はできません。
お客さんを入れることができないからです。
お客さんだけではなくて、従業員もじゅうたんとワックスが乾くまで、バックルームに閉じ込められます。

 清掃のオプションの頼み具合によって2時間から3時間はかかりますのでその間、店は閉店です。
これがほぼ一月に一回あります。

 つまり24時間年中無休で営業するファミレスにも休息の時はあるのです。

 その日はお客さんの入店時に閉店する事情を説明し、あらかじめ了承していただきます。
清掃業者さんにも予定があります。
一晩で何件も掛け持ちして、朝までに数件の清掃を行うそうです。
時間通りに作業を開始してもらわないと次の店に迷惑がかかります。

「明日は店を閉めるんですからそれ以上は、どうしたって店内にいられないじゃないですか。それでどこかに行ってくれますよ」

 中田さんはそう言って、ビニールの袋をつかむと「トイレチェックに行ってきます」と言って風のように去っていきました。

 確かに明日は店は閉店します。
正確に言うと、明けて明後日の午前2時から5時の間店は、清掃作業に入るので帰ってもらわないとなりません。

 しかし、入店時に閉店の予定を了承してくれた人と違って、そのお客さんの場合はそんなことはつゆほども知らないはずです。
入り口には、今は清掃の告知ポスターが貼ってありますが、彼女が来たときにはまだそんなものは無かったのですから……
とすれば午前2時にいきなり店を出てくれと言われても困るはずです。

 もしも今晩中に帰らなかった場合は、明日昼のうちに閉店することを知らせておかないとトラブルになる予感がしました。
それとも、今のうちに言っておいた方がいいかな。
そう考えながら発注量のチェックをしていると、中田さんがトイレチェックから戻ってきました。

「中田くん。あのお客さんのことだけど」

 僕が、今のうちに閉店のことを知らせておいた方がいいかなと言うと、彼女は、それはいいんじゃないですかと言ってモーニングの準備を始めましたが、しばらくして僕に声をかけてきました。

「やっぱり、早めに言っておいた方がいいかもしれないですね、マネージャー」

 こんな夜のうちに閉店のことを言いに行くと、何だか追い返そうとしているみたいなのが気になっていたのですが、明日の昼になってトラブルになるより、今言っておいた方がいいと思いました。
明日の昼は社員がいませんし……

「じゃちょっといってくるよ」
そう僕が言うと、中田さんは
「了解!」と言って右手を挙げて、敬礼のような仕草をしました。
変なやつだと思いながら僕は、客席に向かいました。

 モノレールの漂泊者 PART 3へつづく

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