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2007年7月 5日 (木)

ファミレスの裏メニュー

 前回は、女子高校生アルバイトの椎谷(しいや)くんから小学生の団体三十人の予約を頼まれた話を書きました。
その日が三連休の中日だったため、少し考えましたが僕は受けることにしました。

「で、メニューなんですけど、何か特別に用意してもらえますか?」
彼女は僕に聞いてきました。
「うーん、そうだな……」
僕は考え込みました。

ところでファミレスに、メニューに載っていない料理があると思いますか?

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 裏メニューの話が巷で話題になっていたのはいつ頃でしょうか。
ファミレスは同じチェーン店であれば、同じ値段で同じ料理が楽しめることを大きな特徴としています。
働いている立場でいうのも何ですが、とりあえずファミレスに行けば何とかなるという安心感を売っています。
実は、同じ料理が同じ味に仕上がっていないことがあるということは以前書きました。
 06年07月10日 ファミレス界の達人シェフ
しかし、そこに最低限のラインを設定してチェーンとしての信頼を守るマネジメント力が、一定以上の店舗数を抱えるためには不可欠です。

 そういう歴史があるので僕の在籍しているチェーンでも、長らくメニューは全国統一で動かせないものでした。
しかし、コンビニでも地域に合わせて細かく味を変える時代です。
2000年頃から、うちのチェーンでもメニューの枠を徐々に取り払う試みが行われました。

「特別メニューを作ってほしいの?」
「できれば、そうしてほしいんです。」
椎谷くんは、目から「お願いします光線」をおくってきます。
僕は、その手の攻撃にはとっても弱いので、あっけなく陥落しました。
「で、予算は?」
僕が聞くと彼女は言いにくそうに告げました。
「○○○○円以内でお願いします」
椎谷くんが出した予算は、かなり厳しめでした。

 ここで疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
そうです、うちには料理の内容も値段も自由に店長が決められるメニューがあるのです。
これはメニューブックには載っていません。
予約専用メニューだからです。
運営上の問題があるので、いつでも来店したときに頼めるということではないのです。
一応、何パターンかのセレクトメニューが予算別に用意してありますが、変更は可能です。
店長は可能な限りで、様々なバリエーションを考えることができます。
店長に課せられた条件は三つ。

 ●通常、店舗に納品される食材を使用すること。(別途調達は認められない)

 ●当チェーンの店長として自信を持って提供できる水準であること。

 ●利益の出せる価格設定にすること。

 食材の調達が認められないのは、例えば青果であれば農薬の使用の有無、生産地の特定などができないためためです。
これは会社として譲ることができない条件なのです。
しかし、最近は多種多様の食材が入ってきますし、品質の高いものが市場より低価格で納品されています。
とにかく店の中にある食材ならば、自由に組み合わせて新しいメニューを作ることができます。
料理を考える人間のくふう次第で、かなり専門的な料理も可能になるのです。
価格については、店舗の経営を任されている者として利益を出すのは当然のことです。

「厳しいなー、その値段だと。どんなメニューにしてほしいの」
「実は、家で考えた案があるんです」
そう言って椎谷さんは僕に、レポート用紙に書かれたレシピを差し出しました。
椎谷さんはウェイトレスをやっていますが、入店の時にはキッチンを希望していました。
ただ、そのときの店の人員の都合でホールでの採用になりました。
そういう経緯があるくらいですから料理は得意らしいのです。

 ざっと見て僕は感心しました。
店の食材の中から、さまざまな物をピックアップして、いかにも子供が喜びそうなコースメニューが考えらえていました。
「どうですか? いけそうですかね」
彼女はたずねました。
「うん、いいメニューだ。しかし……」
僕が途中で言葉を切ったので、椎谷くんは「やっぱり」というような顔をしました。

「子供会のコースとしては申し分ない。これなら、会場の手配をしたきみのお母さんの株も上がることまちがいないね。ただし、」
「ただし、何ですか?」
「この値段で出せればの話だよ。このまま作ればかなり原価が高くなるみたいだけど。ちょっと待って、今計算してみるから」
そう言って僕は、椎谷くんの作ったコースメニューの原価を計算し始めました。
計算をしながら、僕は驚きました。

 通常のメニューの原価より高いのは予想通りなのですが、その上回り方が微妙でした。 
「椎谷くん……」
「はい?」
「きみは、食材の原価について知っているの?」
「いえ、ただマニュアルの後ろの方に食材ごとの原価がかいてありますよね。あれを参考にしました」
確かにマニュアルには食材の原価が記入してあります。
しかし、それをメニューにあてはめるには、梱包単位なども考えて細かい計算をする必要があります。

「これだと、利益が出るか出ないかのギリギリのラインだよ。狙ってやったのだとすれば、お見事!」
「おっけーですか?」
「うーん……」
「店長?」
「何?」
「利益が出るか出ないかのギリギリってことは、少なくとも店が損をすることはないっていうことですよね」
「そりゃそうだけど」
「お願いします!」

 手をあわせてお願いする椎谷くんの様子を見ているうちに僕は自分が何だか、アルバイトから儲けをふんだくる悪辣非道の商人であるかのような錯覚に陥ってしまいました。
結局僕は、椎谷くんのメニューを採用することにしました。
そう言うと椎谷くんは、大げさに飛び上がって喜んでくれました。
あれは、僕に対するサービスだったのでしょうか。

「ありがとうございます店長。母も喜びます。それから、その日はあたしキッチンに入ってもいいですか?」
「当然だよ。誰も作り方を知らないんだから、前準備から完成まで責任を持って監督をするように」
「やったー、これで念願のキッチン初体験ですっ!」
さらに椎谷くんは飛び上がりましたが、今度は素直に喜びを表しているようでした。
 罰のつもりで、キッチンにはいるように言ったのに、かえって喜ばせることになり、僕はがっくりと肩を落としました。

 椎谷くんは休憩が終わると、エプロンを軽く直してホールへと元気よくはねるように戻っていきました。
後に残されたのは、レシピを持った僕一人……

 今回は身内ということもあり特別なケースですが、一般の方も事前に相談していただければ、かなり融通はききます。
名前やメッセージ入りのケーキ(ホール)なども、前日では無理ですが事前に注文してもらえば用意することもできます。
食材は豊富にあるので、かなり豪華なコースも設定できます。
ただし、食材の持ち込みなどはできません。
実際、釣り大会の打ち上げで立派なヒラメが持ちこまれたことがあります。
丁重にお断りしましたが、会の趣旨もあり「自分で調理してもらえるなら」ということで調理スペースをお貸ししました。

 一度近くのファミレスで問い合わせてみたらいかがでしょうか。

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