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2007年7月30日 (月)

シンジラレネーション

 本格的な夏が到来し、学校も夏休みに入りました。
ファミレスにとっては一番の稼ぎ時がやって来たわけです。
その出鼻をくじくような出来事が、先週ありました。
ぼくが店長室で事務をやっていると、アルバイトの高校生が呼びに来ました。
「店長、笠原さんがお客さんに怒られて大変なことになっています」
笠原さんはアルバイトを初めてすでに三年の女子大生。
ファミレス界では十分にベテランです。
ホールに向かいながら、ぼくは聞きました。
「一体どうしたの?」
「それがよくわからないんです。お客さんがいきなり怒り出したんです。子供連れの若いお母さんですけど、なんか子供がおもちゃを買いたいのを無視されたと怒ってます」
これは急がないと……

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 ホールに着くと、まさしく鬼のような形相でマシンガンのように言葉を繰り出すお客さんの姿が目に入りました。
このままお客さんの所に行くと、訳がわからずにただ怒られてしまうことになるので情報を収集しなければなりません。
その場で一番目端の利きそうな斉藤さんをつかまえ、ことの成り行きをただしてみました。

「ああ店長、来てくれて良かった。早く笠原さんを助けてあげて下さい。お願いします」
斉藤さんの説明によると、こうでした。

 笠原さんは、レジを担当していたらしいです。
レジのあるカウンターのお客さん側には、ガムなどのお菓子とおもちゃ等が並べられています。
少し前から、そのおもちゃの所に子供が一人いたそうです。
その子供は、いろんなおもちゃを一つずつ触っては遊んでいたらしいです。
車のおもちゃを走らせたり、がんがん叩いたり……
一応見本ではなく商品なので、ホールにいるみんなが気になっていたそうです。
レジで会計が立て込み、列ができてもその子供はおもちゃの前から離れなかったそうです。
会計をするお客さんはレジの真ん前に子供がしゃがみ込んでいるので、その頭越しに会計をするしかありません。
他のお客さんも、笠原さんも困っていたそうです。

 しばらくして、その子供のお母さんがレジの所にやってきていきなり大きな声で怒りだしたらしいです。
「あなた、どういうつもり! うちの子がおもちゃを買おうとしてるのに無視するなんて。どういう教育を受けてるの?」
「すみません、気づきませんでした」
「気づかないって、何なの。あなたはそのためにそこに立っているんじゃないの? 立ってるだけなら誰だってできるわよ」
「はい、申し訳ありません」

 子供が買いたいおもちゃを決めたのに、それに気づかなかったということらしいのです。
「でもあの子は、『これ下さい』とか、そんなことは言っていませんでしたよ。それまでフローリングの上で車のおもちゃを走らせて遊んでいたのに、遊ぶのをやめたなとは思いましたけど」
斉藤さんが、その時の状況を思い出しながら語ってくれました。

 その子供がどのくらいの間レジの前に立っていたのかはわかりません。
その間も、会計の列は続いていたので笠原さんは順番にそれをこなしていきました。
子供はそれで、おもちゃを持ったまま席に戻ったようです。

 「お遊びモード」から、「買いたいモード」に子供の心が切り替わったのに、それに何故気づかないのか?
その点が、お客さんの怒りの原因でした。
「でもそんなの無理ですよ。あの子はただ突っ立ってただけなんですから」
斉藤さんは憤慨して言いました。
「まあまあ、いちおう気づかなかったこちらに非はあるわけだし、謝るしかないよね」
「だから、謝ってますって! 笠原さんはさっきからずっと謝ってます。でもあのお母さんは絶対に許してくれないんです!」
情報収集にあまり時間もかけていられないので、これは長引きそうだと覚悟してお客さんの方に向かいました。

「店長の佐野と申します。こちらの手違いでおきゃくさまにご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ありませんでした」
「あなたが、店長? いったいどういう教育をしているの。うちの子がおもちゃを買おうとしているのに先に他の客のレジを済ませたらしいじゃない。考えられないわよ。あなた名刺を出して!」
ぼくは名刺入れから一枚お客さんに差し出しました。
お客さんは名刺を見ながら言いました。
「うちでは、いつも子供に教えているのよ。順番はちゃんと守りなさいって。うちの子はちゃんと自分の順番がくるのを待っていたのに、いつまでたっても自分の番が回ってこないから席に戻ってきたのよ」
「こちらが、もう少しお子さんのことに注意深くするべきでした、申し訳ありません。今後はこのようなことが無いようにいたしますので」
「今後って、じゃあ今日のことはどうしてくれるのよ」

 こういうときに一番困ります。
一度起こってしまったことは変えられないし、現実として目に見える実害が発生していないので、これに対しては謝罪するしか方法が無いのです。
が、それで許してもらえないとすると更に謝り続けるしかありません。

「うちでは厳しく教育してるのよ。子供がルールを守っているのに、大人がそれを崩してどうなるの。これが原因でもしうちの子が悪い子に育ったらどう責任をとってくれるのよ」

 うーん、お客様。
ちょっと話が飛躍しているような……
そんなことで悪い人間になるようなことがあるとしたら世の中悪人だらけになります。
それに順番を守ることを教えるのなら、「列に並ぶこと」も教えるべきでは?
さらに、自分の意思を言葉ではっきり相手に伝えるように教育するべきなのでは?

 そう思いましたが、そんなことはこの状況で言えるわけはありません。
子供の変化に気づかなかったことは間違いないですから。
しかし、個人的に笠原さんの行動を責める気持ちはまったくありませんでした。
ぼくが、その場にいても気づいていたかどうかわからないからです。

 その若いお母さんの攻撃は、その後もしばらく続きました。
「これだからファミレスはいやなのよ。アルバイトばっかりで教育がなっていないんだから。このことは本部にしっかり報告しますから」
最後にそういい残して、帰って行きました。

「店長すみません。もう少し私が気をつけていれば良かったんです」
笠原さんは言いました。
「まあまあ、今日は仕方ないよ」
僕はそうなぐさめましたが、他のメンバーは憤慨していました。

「何、あのお客。勝手にレジの前で子供を遊ばせていたくせに」
「そうそう、レジの前のおもちゃは全部よだれでべとべとになってるよ」
ちょっと危険な雰囲気だったのでぼくは宣言しました。
「はいはい、この話はもう終わりにして仕事に戻って」

それにしてもサービス業は、気を抜けませんね。
何が起こるかわからない。
人の心は読めませんから。
そのなかでも、がんばらないといけないわけです。
あの剣幕では、本当に本部に苦情の電話をするでしょう。
一応本部に事前連絡をしておかないといけません。
ちょっと気は重いです。

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