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2006年8月 9日 (水)

スーパー・アルバイター PART 14    深夜のドン 2

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「店長、それは絶対無理です。深夜のキッチンは一人なんですよ。オーダーが入っても冷凍庫の中に入っていては気づきません」
深夜に解凍作業を持ってこようとした僕に、武内君は答えました。
「どうしても無理かな」
僕は聞き返しましたが、武内君の答えは冷たいものでした。
「深夜のスケジュールを考えてみてください。1時か2時までは二人いますから、どちらかが冷凍庫に行っていてもだいじょうぶです。でもそれ以降は一人ですから、冷凍庫に行ってしまうとオーダーが入っても分からないじゃないですか」
オーダーが入ると、キッチンのプリンターからチェックがプリントアウトされます。
その時に、電子音でオーダーが入ったことを知らせてくれるのですが、それほど大きな音ではありません。
分厚い扉に閉ざされた冷凍庫の中まで聞こえるようなものではありません。
「オーダーが入ったら、ホールの人間が冷凍庫まで知らせに行くようにしたらどうだろう」
「ホールもその時間は、いろいろバックに下がる仕事もありますから、表にいるのは一人の時間が多いですよ。そんなときは、冷凍庫まで知らせに来る余裕はないかもしれませんよ」
確かにそうです。
深夜の入客は少ないので、ホールに二人いても実際に接客に当たっているのは一人で、もう一人は他の仕事をしている場合が多いのです。
「仮に知らせに来てくれることができたとしても、やっぱり無理ですよ」
武内君は更に続けました。

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「僕も前は、夏休みとかにランチに入ったことがありますから解凍がどんなものかは分かっています。店長、解凍の時はどんな格好でやるか知っていますか」
「防寒着のジャンパーを着て、手袋をするのかな」
冷凍庫の中はマイナス20度ですから、それなりの対策をしないと耐えられません。
「そうですよね、そしてオーダーが入るたびにジャンパーを脱いで、軍手をはずし、手を消毒して調理に取りかかるんですか? そんなのは非効率ですよ。解凍は二人以上人員がいる時にやるべき仕事だと思います。わざわざ深夜に持ってくる理由が分かりません」

解凍作業をするには、数ある冷凍食材のなかから必要なものを、必要な数量だけ選び出さなければなりません。
オーダーが入るたびにキッチンに呼び戻されていては、確かに作業は進まないかもしれません。
「しかし、武内君。深夜は入客も途絶える時があると思うんだけど。そういう時間に、やることはできないかな?」
「店長、お客さんが、いつ入ってくるか分かりますか?」
「いや・・・」
「だったら、仕事の計画が立てられないじゃないですか。仕事が増えるのがいやだと言っているんじゃないんです。僕なりに朝までの時間をできるだけ効率的に使えるように段取りを組んでいます。計画を立てても入客によって、うまく仕事が進まない時もあります。それでも朝までには、帳尻を合わせます。新しい仕事が増えるだけなら何とかします。でもそれは、一人でもできる作業にしてください。これ以上、入客の隙を見てやらなければならないことを、増やさないでください」
「これ以上って、どういうこと? 他にもそんな仕事があるのかな?」
「店長、僕の今日のスケジュールは0時から8時までですけど、休憩が2回ありますよね」
拘束時間が8時間の場合は、30分間の食事休憩が1回、15分の休憩が1回あります。合計で45分間の休憩があるのですが・・・
「0時に出勤してきた僕が、何時に休憩すると思いますか?」
僕はやっと、武内君が「これ以上入客の隙を見てやらなければならないことを増やさないでくれ」といった意味が分かりました。

  PART 15 につづく

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