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2006年8月10日 (木)

事故と鰻と缶ビール PART 1

僕が、国道沿いにある店舗の副店長だったころのことです。
季節は夏の終わりのことでした。
深夜のファミレス(ファミリーレストラン)には、いろんな人がやって来ます。
僕が事務室で仕事をしていると、アルバイトの阿部君がノックをしました
「マネージャー、変な人が来てるんですけど、ちょっとお願いします」
古株アルバイトの阿部君、大学3年生。
少々あわてています。
酔っぱらいでも来たかと思ってホールに出て行くと、そこには真っ青な顔をした男が、立っていました。

「電話をしてもらえませんか?」
彼は、手を小刻みに震わせながら言いました。
電話を貸してほしいと言ったのかと、一瞬思ったけれど店には公衆電話もあります。
当時は、まだ携帯がそれほど普及していませんでした。
「どこに電話していいか、分からないんです」
彼は続けます。
「どういうことですか」
彼の言っていることを僕は、理解できませんでした。
「人を轢いちゃったんです、どうしたらいいですか」
「え?・・・」
状況がすぐにはのみこめませんでしたが、どうやら交通事故を起こしてしまったらしいと分かりました。
「それで、ケガの程度はどうなんですか?」
「怖くて見ていないんです、どうしたらいいですか」
「そんな、無責任な」
僕はジャケットを腕を通すと駐車場に出ました。

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店の前は、幹線道路です。
深夜というか、すでに早朝と言った方がよい午前4時でした。
一日で一番交通量が少なくなる時間ですが、トラックなどはスピードを出して走っています。
けが人がそのまま道路に倒れたままだとすれば非常に危険です。
付いてきたアルバイトの阿部君に店に戻って119番に電話するように言うと、僕は現場に向かいました。
しかし、ドライバーの男がついてきません。
「ちょっとあなた、一緒に来てください」
「僕も、行かなきゃいけませんか?」
「あたりまえでしょう、何を言ってるんですか」

店の前の片道2車線の国道に出ると、4トントラックが止まっていました。
トラックの5メートルほど前、外側車線に体を横向きにして、倒れている人が見えました。
近寄ると、右手を頭上に伸ばした格好で倒れており、頭部から出血しています。
血は、10センチほどの川になって側溝に向かって今も伸びています。
「ケガはひどいですか?」
ドライバーが覗き込みます。
僕はそれには答えず、倒れている人の左手首に触れてみました。
脈拍は、僕には感じられませんでした。
アルバイトの阿部君が、店から出てきました。
「救急と警察に電話しました」
阿部君は、あまりこちらに近寄りたくないようでした。
「阿部君、車を誘導してくれないかな、このままじゃ二重事故に、なりかねないよ」
現場は、信号の100メートル程先です。
赤信号に引っかかりそうになった車が、猛スピードで突っ込んでくるかもしれません。

程なく、救急車とパトカーが到着しました。
救急隊員は、てきぱきと必要な処置を施し、怪我人を救急車に乗せました。
「あなたが通報者ですか? 今から搬送します。行き先は○○市中央病院」
その時初めて、被害者の顔が見えました。

ああ、あの人を僕は知っている。

救急車がサイレンを深夜の街に響かせながら走り去り、警察官がこちらの方にやってきました。
「運転していたのは、誰ですか?」
「私です」
今にも倒れそうなようすの、ドライバーが名乗り出ました。
警察官は、僕の方に向き直りました。
「あなたは?」
「前のレストランの責任者で、佐野といいます」
「通報してくれた方ですか?」
「実際に電話したのは、うちの従業員です。電話は、店の電話を使いました」
警察官は、僕に名前と住所、連絡先を質問し、手帳に書き留めると、もう仕事の方に戻って良いと言いました。

「お巡りさん、僕あの人の名前を知っています」
「何ですって」
そう言って警察官は、手帳を見直しました。
「えーと、佐野さん。どういうことでしょうか」

  PART 2 につづく

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