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2006年8月 1日 (火)

スーパー・アルバイター PART 11    ランチの女王 3

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「ランチの皆さんの負担を少し軽くして差し上げます」
僕は、不安そうな堀田さんに宣言しました。
「どういうことでしょうか?」
「堀田さん、プリパレの量を減らせば確かに途中で切れることもあるでしょう。深夜でやっていたプリパレがランチに回ってくれば負担が重くなるのも分かります。そこで、こうしましょう」
(プリパレとは野菜類の前準備のことです)
僕は、一呼吸置くと続けました。
「今まで、ランチ後14時頃にやっていた解凍作業を深夜に回しましょう。そうすれば、余裕ができるんではないですか?」
解凍作業というのは、冷凍食材を翌日の使用量に合わせて冷凍庫から冷蔵庫に移し、24時間かけて使用できるようにすることです。マイナス20度の冷凍庫の中に入って作業しなければならないので、負担の大きい仕事です。
「それは、困ります、店長」
「どうしてですか」
「自分たちの仕事が大変になったからといって、他のシフトに仕事を回すなんてできません。それぐらいなら自分たちでがんばります。もともと、深夜にプリパレをやってもらって助けてもらっていたのは、こちらなんですから」
「そういう考え方はやめませんか、堀田さん。同じ店で働く人間なんですから」
「そういうわけにはいきません」
堀田さんにしてみれば、こういう話の流れになっては自分たちの都合だけを通しているような感じになります。
彼女は仕事ができるだけに、プライドがあります。
僕の提案は、彼女のプライドをいたく刺激したようです。
しかし、ここは正念場です。
「堀田さん、一日の仕事の割り振りを決めるのは店長です。解凍作業は、ランチの人間の仕事なのではありません。店長がランチの仕事だと決めたから、ランチでやっているだけです。それを、僕が深夜に回すと言っているのだから、これには従っていただきたいです」
これを聞いて、堀田さんの顔が少々引きつりました。

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「それでは、今までがんばってきた私たちの立場はどうなるんですか?」
ファミレスでは24時間営業をおこなっている店が多くあります。
様々な時間帯で働く従業員が在籍しますが、意外とシフト間のつながりが少ない店が多いです。
場合によっては昼間の従業員と、夜の従業員の間がうまくいっていないこともあります。
ですから問題の発生しやすい、シフトをまたぐ仕事の割り振りは店長がやるしかないのです。
「堀田さん、話を戻しましょう。僕は発注の量を減らして、今まで深夜に前倒しでやっていたプリパレをできないようにしました。それで、ランチの作業が時間的にきつくなったというのが話の始まりでしたよね」
堀田さんが、黙ってうなずきました。
「さらに僕はプリパレの予定量そのものも減らしてくれとお願いしました。これは、さらに皆さんの負担を増すことになります。それは、承知の上で頼んでいるのです。しかしそのままではランチのキッチンがうまく廻らない。だから僕は、解凍作業を深夜に回すと言っているのです。すでに、深夜のメンバーには話をしてあります。これが、あなた方の作業の負担を増やすことに対する僕の責任の取り方です」
「そう言われても、私たちの都合で他のシフトに仕事を回すのは抵抗があります」
「だから、そういう考え方をやめましょうと言っているんです。深夜のメンバーに解凍作業をやるように指示を出すのは僕なんですから、僕を悪者にしていればいいんです。批判が出てもそれは僕が受け止めますよ。堀田さんは、僕に指示されたとおりにやっているだけだという姿勢を貫いていただいて結構です」
堀田さんは、しばらく考えていましたが、やがて口を開きました。
「店長のお話は分かりました。そこまで言われてしまっては協力するしかありません。おっしゃるとおりにいたします」
「分かっていただけましたか。ありがとうございます」
「でも、店長どうしても答えていただかなくては、ならないことがあります」
堀田さんは、まっすぐにこちらを見返してきました。
僕はやっぱりこの人は骨があるなあ、と思いました。
この店のランチのキッチンは、堀田さんを中心に据えて改善していけば間違いがないと確信しました。
しかし、その為には彼女に自分を信頼してもらい、協力してもらわなければなりません。
その為には、いくらでも時間を割く用意がありました。
ディナーの大学生アルバイト矢口さんに加えて、ランチの堀田さんに協力者になってもらえば。僕の仕事はやりやすくなります。
「何でしょうか?」
「店長は、朝3時にカットされた野菜を9時間後にランチタイムのお客さんが食べるのはおかしいと言われましたよね。解凍にも同じことが言えるんじゃないでしょうか」
確かにその通りです。
朝3時に冷凍庫から、冷蔵庫に移された食材は24時間かけてゆっくり解凍されます。
そして翌日の朝3時には解凍が完了し、使える状態になります。
しかし、そこからランチタイムが始まるまでの9時間は食材の使用量は多くありません。
冷凍食材といえども解凍後の賞味時間はあります。
解凍が完了してから最初の9時間に、ほとんど食材を消費しないというのは鮮度の点から見てもベストのタイミングとは言えません。
僕が深夜のプリパレをやめるための理由として説明したことが、そのまま解凍作業にも当てはまるということです。
「この点を説明して頂かなくては、やはり納得できません」
矢口さんといい、堀田さんといい、どうして彼女たちは僕の言葉の細かい矛盾に気がつくのだろう。
仕事に対する真剣さと、細かさは新入社員に見習ってほしいぐらいです。
確かに堀田さんの言うことは正しく、僕の説明には矛盾があります。
しかし、この点に関しても僕はあらかじめ、ある答えを用意してありました。
まさか直接聞かれることになるとは思いもしませんでしたが、もし解決策を用意していなければ大恥をかくところでした。
その解決策とは・・・

  PART 12 につづく

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コメント

お店がすこしづつ変わってきているのが、

とても良くわかりますが、

最終形態になるまでは、まだまだありそうですね。

というか世の中の流れに一番左右され

てしまう・・・。ということは、

最終形態というものもないのでしょうか?

只、私的にはいろんなドラマがあって

楽しいのですが・・・。


影ながら応援させていただきます。

投稿: 札幌ひとりくらしブログ | 2006年8月 1日 (火) 17:17

札幌ひとりぐらしブログさん、コメントありがとうございます。
最終形態というのは難しいですね。
そういう意味では、一から作り上げられる新店が一番面白いですね。
既存店の場合は、自分の思い描いた理想に近づくと、そろそろ次の異動です。
そうすると、また仕切り直しです。
その繰り返しです。
これが、サラリーマン店長の限界でしょうか・・・
僕の師匠とも言うべき人は、自分の道を求めて独立していきました。
僕も誘われたのですが、その時僕は新店を任されることが決まっていたので、そちらの方に魅力を感じてしまいました。
今思えば、その時は運命を変えるチャンスだったのかもしれません。

投稿: ばーど | 2006年8月 2日 (水) 02:16

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