« 海とバイクとコパトーン | トップページ | スーパー・アルバイター PART 14    深夜のドン 2 »

2006年8月 8日 (火)

フィンガー・トラップ

今日は大変でした。
高校生のアルバイト君が、手を切ってしまったのです。
最近のファミレス(ファミリーレストラン)では、野菜のプリパレ(前準備のこと)は機械を使うところが多くなっています。
そのため以前よりはケガをする確率は低くなっています。
とはいえ、包丁も使いますし、火も使いますので、ケガや火傷の危険は常につきまといます。
14時頃でしたが、高校生アルバイトの藤川君が店長室のドアをノックしました。
「店長、指を切ってしまいました」
藤川君はペーパータオルで包まれた指を握りしめています。
ペーパータオルは血を吸って赤く染まっていました。
「だいじょうぶか? どのくらい深く切ったの?」
「いやよく分からないんです、血がどんどん吹き出てくるので押さえているしかなくって・・・」
話を聞くと、切ったのは左手のひとさし指だということです。
食材を包丁でカットしている時に不注意で指を伸ばしてしまい、上から切り下ろしてしまったらしいのです。
仲間と話をしながら作業をしていて、包丁が何かにあたったのを感じて無意識に更に力を入れてしまったらしいのです。
その何かとは、藤川君の人差し指の爪でした。
包丁は藤川君の爪をざっくりと切り裂いて、肉まで達しました。
僕はシンクの前に藤川君を連れて行き、ペーパータオルを取ってみました。
根本を縛られた人差し指は血の気を失い白く変色して、爪の部分に、ぱっくりと深い傷口が開いていました。
「こりゃあ、病院に行かないとだめだな。藤川君、すぐに連れて行くから着替えて」
「店長、病院ってことは、縫うってことですか?」
「当たり前だろう、その傷は縫わないと無理だよ」
藤川君の顔が青くなりました。

人気blogランキングへ

ファミレスではこうしたことが起きないように注意はしていますが、事故は必ず発生します。
そういう時にために地元の病院については、リストを作って万一に備えています。
僕はそのうちの一カ所に電話をかけて、診察が可能かどうか確かめました。
幸い診察は可能だということなので、僕は藤川君を連れて病院へ向かいました。
途中コンビニで止まり、ATMで現金を3万円ほど引き出しました。
仕事中のケガは労災で処理されるので、本人の負担はありません。
しかし病院によっては、一度支払いを済ませてから払い戻しを受けるという形になるので現金が必要な場合があります。
しかも保険扱いではないので、それなりの金額を用意しなければならないのです。

「店長、僕縫ったりしたことないんですよ。縫うのって痛いですかね?」
「さあ、僕も経験ないから分からないな」
実は僕も生まれてからこの方、ケガに縁がなく外科に行ったことがありません。
残念ながら藤川君の不安を和らげてあげるような言葉は思いつきませんでした。
「藤川君、今、指は痛いよね?」
「痛いですよ。指の先に心臓があるみたいにドクドク脈打ってます。そのたびにズキズキします」
「たぶん、その痛みよりは、ましじゃないの」
「店長!」
「何?」
「全然、なぐさめになっていませんよ」
「そうかなあ」
そんなことを話しているうちに、病院に着きました。

一応僕も保護者代理として、診察室に同行しました。
先生は、傷口を洗浄消毒して、しばらく調べていましたが、やがて口を開きました。
「これは傷口を縫わないとだめですね。それと爪の前半分は死んでいるのではがしましょう」
「先生、爪をはがすんですか?」
藤川君が不安な表情で自分の人差し指を見つめます。
「先生、麻酔はするんですよね?」
「うーん、しても良いんだけど。できれば使いたくないな。このくらい耐えられるよね?」
先生は何食わぬ顔で言いましたが、藤川君はすでに逃げ腰です。
僕と同様、外科のお世話になった事がないらしい藤川君は、その痛みがどの位のものなのか想像がつかないのです。
しかし、こんな事は日常茶飯事の先生は、どんどん準備を進めます。
いよいよ先生が治療に取りかかろうとした時、たまらずに僕は声を出しました。
「あのう、先生。僕は外で待っていますから・・・」
僕は痛みに耐える藤川君の姿を見るのは忍びなかったのです。

僕が外で待っていると10分ほどで治療は終わりました。
指に包帯を巻き、診察室から出てきた藤川くんは、恨めしそうな目で僕を見ました。
「店長の話は、嘘でした」
「えっ、何が?」
「爪をはがしたり、傷口を縫ったりする方が、百倍痛かったです!」
「何言ってんだ。男のくせに」
「店長だって、見ていられなくて出て行ったじゃないですか」
それは確かにその通りです。

その後僕は、藤川君を自宅まで送り届け、ご両親に何があったかをお話して、店長として事故が起こってしまったことに関してお詫びしました。

こうした事故は、どんなに注意していてもゼロにはできません。
ただ僕自身は、永年勤めていながら勤務中にケガをしたことがないのが自慢です。
できればこのままずっと、外科の世話にならずに過ごしたいものです。

 過去ログのインデックスへ
 カテゴリ別のインデックスへ
 TOPページへ

|

« 海とバイクとコパトーン | トップページ | スーパー・アルバイター PART 14    深夜のドン 2 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/179348/11339651

この記事へのトラックバック一覧です: フィンガー・トラップ:

« 海とバイクとコパトーン | トップページ | スーパー・アルバイター PART 14    深夜のドン 2 »