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2006年6月13日 (火)

マタニティー軍団 VS 炎のパティシエ

ワールドカップの日本代表残念でした。
昨日、パブリックビューイングの近くの店は稼ぎ時だという話を書きました。
しかし残念ながら他の店は惨憺たる状況です。
うちの店も、売り上げは前年割れです。
知り合いに、パブリックビューイングの近くの店の店長がいるのですが、話を聞くと好調だったようです。
予定した売り上げは多少下回ったものの、前年比150%だそうです。
うらやましいです。
ファミレスも客商売ですから、天候やカレンダーの日割り、近隣のイベント、お祭り、コンサート等々によって大きく影響を受けます。
小さいものなら見過ごしても大丈夫ですが、大きなものの情報を見逃すと大変なことになります。
今はどこも人件費が厳しいので、無駄な人員は置いていません。
ですから、大きく予測を上回る入客があると店はパニックです。

ある日の14時過ぎ、ランチタイムも終わり店が落ち着いた頃、にわかに妊婦さんの大群が店を襲来しました。
その数、ざっと40名!

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店内は急に世界が変わってしまいました。
妊婦さんの中には、かなりおなかが大きくなっていて、ブース席には座れない方もいました。
そんな方は、可動式のイスがある席へご案内したりと大変です。
突如、40名の来店を迎えた店は大変です。
特に14時過ぎという、微妙な時間帯だと食材の状態も確認が必要です。
特にライスは、炊飯後3時間で破棄となるので、この時間だと残りが少ない場合もあります。
なるべく炊きあがりに近い状態で提供するため、ぎりぎりまでライスの点火を遅らせています。
キッチンから声がかかります。
「店長、ライスの残量、2キロ切ってます」
まさか、妊婦さんたちがこの時間に、ライスの大盛りやカレーなどを食べるとも思えないのですが判断に迷うところです。
「1キロにしますか? 2キロ炊きますか?」
キッチンからは、僕の返答に催促がかかります。
キッチンの人間にすれば、オーダーが入っているのに食材が無いために調理できない状態だけは絶対に避けたいのです。
ライスなどを切らそうものなら、調理は全てストップします。
同じテーブルの中で、ライスを使う料理だけを後にして、他の料理を出してしまうわけにはいかないからです。
その間にも新しいオーダーは入ってきます。
そして、ライスが炊きあがった瞬間に、全てのオーダーを調理開始しなければならなくなります。
キッチンで一番困るのは、オーダーが集中することです。
ライスが切れた後のキッチンは、しばらくの何もすることがない状態から、一気に地獄と化します。
「ちょっと待って。今訊いてくるから」
そう言って、僕は団体さんのところに近づいていきました。
こんな時は、迷う前にお客さんに状況を説明して正直に訊いてみる・・・
僕はそうすることにしています。
プロとしては多少恥ずかしくもありますが、迷惑をかけてしまうのはお客様です。
グループのリーダーらしき人に僕は尋ねました。
「店長の、佐野と申します。ご来店ありがとうございます。お料理の準備がありますのでお伺いしますが、本日はお食事でしょうか、それともデザートや飲み物類をご希望でしょうか」
店長としてのプライドは多少傷つきますが、これも店全体のためです。
お客様の答えは、飲み物デザート類と言うことでした。
キッチンに、緊張が解けたのと対照的に、今度はホールの方があわただしくなりました。
うちでは、デザート類の作成はホール側で担当します。
もともとアイドルタイム(ピークとピークの間のヒマな時間帯)のデザート需要に合わせて準備をしていましたが、大幅に量を増やさなくてはなりません。
ホールのリーダーは急いで、ケーキ、フルーツ、ジュース類の確認に走ります。
しばらくして、最初のテーブルのオーダーが入ってきました。
そこは、ジュースばかりのオーダーでした。
12テーブルに別れて座ったマタニティ軍団のオーダーは最初の数テーブルは軽めでした。
ジュースや、ケーキ類が中心でほとんどサーブするだけですみます。
作業的には負担がありません。
しかし、問題は後半のグループに入ってからでした。
パフェ類が、ばんばん入ってきたのです。
ホールのデザート作成で最も手間がかかり、時間がかかるのがパフェ類です。
同時に多数のパフェが入ると、一気にホールは苦しくなります。
結局オーダーを取り終わると、パフェ類の合計数は18個になっていました。
これは同時に入るパフェの数としては、許容量をはるかに超えています。
常に料理を作り続けるキッチンと違って、ホールのデザート作成スペースは広さもごく限られています。
設計の段階で、一度にデザートが集中することは考えられていないのです。
ですから、そこに人数を投入して一気に作成してしまうというようなことはできません。
ホールのリーダーは、自らデザート係になることを宣言し、助手を一人指名しました。
そして普段、皿やグラス、調味料等を並べてあるスペースにあるものを全て撤去して、新しくスペースを作りだしました。
「店長、お客様の方はお願いします」
彼女はそう言うと、あざやかな手つきでパフェの作成にかかりました。
必要なグラスをパフェの種類別に分けて、作ったスペースに全て並べました。
パフェの中に入れる、アイスやソース類は複数あります。
その組み合わせや、入れる順番はパフェによってさまざまです。
彼女は、それを1つの無駄もなく、同じアイスやソースを使う場面では、パフェの種類が違っても一度で全て済ませていきます。
これは手順の段取りを考えて、すべての行程をバラバラにして再構成しなければできません。
一人抱えた助手をうまく使って、考えられないスピードで同時に18個のパフェが出来上がっていきます。
それはまるで、高層ビルがどんどん出来上がっていくのを見るようでした。
18本の高層ビルは、瞬く間ににょきにょきとその高さを増していきました。
しかし、僕は気づきました。
ホールリーダーはデザートにはこだわりがあり、レシピには厳格です。
しかし、あるパフェのアイスを盛りつける順番が上下逆になっているのです。
味に変わりはないし、見栄えとしても特に問題はありませんが、彼女のプライドの源はメニューの写真に勝るパフェを作ることです。
普段なら、彼女がアイスの順番を変えるなどということは考えられません。
しかし、そのアイスの順番を変えることによって作業の手順が単純化されます。
複数のパフェのアイスの順番を統一することによって、4行程かかるところを2行程に短縮できます。
単純化した作業は助手に任せ、その間に自分は他の行程に取りかかります。
もちろん僕はそのことについて口は出しませんでした。
パフェの作成は、彼女に任せたのです。
僕の役目は、デザートのできあがりが遅いというクレームを起こさないよう、お客様のフォローをすることです。
結局、18個のパフェは通常よりも時間はかかったとはいえ、考えられないスピードで完成しました。
普通の人間に任せれば、おそらく倍以上の時間がかかり、アイスが溶け始めるなどという事態も十分に考えられるところです。
見事な手際でした。
誰にでもできることではありません。

この団体は近くのコミュニティセンターで開かれたイベントの出席者だと言うことが後で分かりました。
コミュニティーセンターに著名な講師が訪れて、出産に関する講演を開いたようでした。
普段それほど、出席者が多いイベントなど開かれたことのないセンターだったので、情報収集が不足していました。
店長としては、大きなミスです。
しかし、今回はホールリーダーの底力に助けられました。
団体が帰った後、リーダーが言いました。
「来月も、同じような講演があるらしいですよ。今度はちゃんと市民便りとかで調べておきます。ところで、店長気づきました?・・・」
彼女は、アイスの順番を変えたことを言っているようでした。
僕は彼女のプライドを傷つけないために気づかなかった振りをすることにしました。
「いや・・・ 何のこと? それより今日はご苦労様、おかげでうまくいったから、また来るってお客様が言ってくれたよ」

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