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2006年6月24日 (土)

雨の駅前ロータリー

今は梅雨のまっただ中ですが、この時期になると思い出すことがあります。
8年ぐらい前になりますが、当時僕はある店の副店長でした。
梅雨のある日曜日の18時頃でした。
ふと気づくと、駐車場に傘を差した人集りがあります。
よく見ると、うちのアルバイトの高校生です。
どうやら、これからカラオケにでも行くつもりで、上がってくる仲間を待っているようすでした。
よく見るとその中には、朝の6時から15時までフルシフトで働いて、一足先に上がった人間もいます。
高校生は元気だなあと思いました。

それから、5時間ほど経った23時頃でした。
高校生アルバイトの、清宮さんがあわてたようすで店に入ってきました。
「マネージャー、お願いがあるんですけど」
マネージャーとは、僕のことです。
当時、店長は「店長」、副店長は「マネージャー」と呼ばれていました。
なんで、英語と日本語が混在するのかわかりませんが、習慣でそう呼ばれていました。
僕が、どうしたのと聞くと清宮さんは言いました。
「高木君が、酔っぱらって倒れちゃったんです。最初はたいしたこと無いと思っていたんですけど、ちょっと前から、寒い寒いって言い出して震えているんです」
「まずいよ、急性アルコール中毒じゃないの。この時間じゃ、早く救急車を呼んだ方がいい」
「だけど、高木君が救急車は絶対いやだって言うんです。救急車を呼んだらそいつを一生恨むって・・・」
「なんで、救急車はいやなんだ?」
「学校にばれると、停学になるからだって言ってます」
「ばかっ、死んだら停学も何もないぞ」
そういうと僕は、

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店のことを、大学生のアルバイトに頼み財布の中に現金が3万円ほど入っているのを確かめてからジャケットをはおりました。
車のキーをつかむと、清宮さんと一緒に駐車場の自分の車に向かいました。
「高木君は今どこにいるの?」
「駅前ロータリーのベンチです」
駅前までは距離にして2kmほどですから、5分もかかりません。
「それで、どんなようすなの?」
清宮さんの方を見ると、彼女は涙ぐんでいました。
「最初はただ、飲み過ぎただけだと思っていたんです。店を出た後、高木君が気持ち悪いって言って道ばたで吐いたんです。それも、食べたものを全部出しちゃうぐらいの勢いで。その後、そのまま頭が痛いって言ってベンチに倒れたんです」
「で、震えているって言ってたけど?」
「寒い寒いって言うんでジャンパーとか、かけてあげてたんですけど、そのうち小刻みに震えだしたんです。それで、私たち怖くなっちゃって・・・」
「そりゃあ、寒くて震えているんじゃないな。意識は、あるの?」
「はい、誰かが救急車を呼ぼうって言うと、立てもしないのにつかみかかろうとするんです」
「そんな、状態で彼はどうするつもりなんだい」
「救急車は絶対にいやだから、マネージャーに頼んでもらえないかって・・・」
やれやれ、とんだところで頼られたもんです。
そう思いながら僕は頭の中で、今開いている病院で一番近くにあるのはどこか考えていました。
駅前ロータリーに着くと、ベンチの回りに10人ほどのアルバイトたちが集まっていました。
ベンチの上には、真っ青な顔をして小刻みに震えながら、膝を抱えた状態で横たわる高木君の姿がありました。
「おい、高木! 大丈夫か?」
僕がそう尋ねると、彼は弱々しい声で言いました。

「マネージャー、すみません。ちょっと飲み過ぎたみたいです」
「ちょっとじゃないだろう。こんなになるまで飲むなんて」
僕は、男子高校生二人の力を借りて、高木君を自分の車に乗せました。
2ドアの車なので、さきに後部座席に清宮さんに乗ってもらい、高木君を助手席に乗せました。
ぼくは、車をS病院に向けて走らせました。
話を聞いてみると、高木君は最初からかなりのペースで飲んでいたらしいのですが、店を出る直前に立て続けに2杯、濃いめサワーを飲んだらしいです。
その最後の2杯のアルコール分が、彼の脳細胞の中で暴れているのでしょう。
「それにしても、清宮君。どういうことだよ。あんまり固いことも言いたくないけど、倒れるまで飲むなんて度を超しているよ」
「すみません、最初はカラオケだけのはずだったんです。いつもはそんなことは無いのに、今日は・・・」
そう言っている間に、車は病院に着きました。
「高木、立てるか?」
そう聞くと彼がうなずいたので、僕は彼を支えながら病院内に運び込みました。
医師に状況を告げると、胃の中を洗ってみましょうと言って彼を処置室の中に連れて行きました。
その後、処置室の中から高木君の苦しそうなうめき声が聞こえてきました。
しばらくして出てきた医師は言いました。
「かなりの量のアルコールを飲まれたようですね。できれば、もう少し早く来て頂きたかったところですが、まぁ心配ないでしょう。ただ、もう少し遅れていたら危なかったですよ」
僕の横で清宮さんの肩の力が抜ける気配がしました。
その頃になると駅前にいた高校生たちが自転車等で、病院まで駆け付けてきました。
とりあえず心配はないと伝えると、彼らの間に安堵の空気が漂いました。
僕は彼らの中の、リーダー格である原田君の姿を見つけて言いました。
「原田、いったいどういうことなんだよ。お前も飲んでいるのか」
「いや、僕は体が受け付けないんで、まったく飲んでません」
「自分が飲まなきゃいいってもんでもないだろ。高校生のくせに。プライベートにうるさいことは言いたくないけど、それにしても限度がある。お前が止めなきゃいけなかったんじゃないのか?」
「すみません・・・」
「みんなにも言っておくけど、高木はあと少し遅かったら重大なことになっていたかもしれないんだぞ! 今後二度とこんなことは許さないし、あっても次は助けてやらないぞ」
そういうと彼らは皆、力なくうなずきました。
一人一人は悪いやつじゃないし、むしろ世間一般の基準からすれば真面目な方だと思うんですが、今日は魔が差したのかもしれません。
その後、病院に駆け付けたご両親に彼を任せて、僕は自分の車に向かいました。
病院の駐車場から車を出そうとすると、玄関の前に高校生たちがずらりと並んでこちらにお辞儀をしました。
僕は、窓を開けると彼らに言いました。、
「もう心配ないから、後はご両親に任せて、みんな早く自分の家に帰れ」
車を店に向けて走らせながら、ちらりと助手席を見ると、泥や吐瀉物でシートは汚れていました。
やれやれ、そう思いながらラジオを付けると、明日は久しぶりに晴天となり気温も上がると天気予報が告げていました。
「さあて、明日は車でも磨くかな」
誰に告げるでもなく、そうつぶやくと僕は店への道を急ぎました。

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